「何度も同じことばかり聞かないで」
「なんでできないの?」
認知症の家族への対応に悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
分かっていても強く言ってしまい、後悔している方は少なくありません。
認知症は見た目では分かりにくい病気であり、そばで支える家族も対応に悩み、孤独を感じてしまうことがあります。家族だけで抱えるには負担が大きいのです。
この記事では認知症の方への対応、相談できる場所についても解説していきます。
対応のコツや、相談先を知ることで、少しでも気持ちが楽になり、安心して向き合えるようになるはずです。
認知症の家族への対応で気をつけたいこと

認知症の方への対応は、不安を与えない関わりや、尊厳を大切にする姿勢が欠かせません。
ここでは家族がやってしまいがちな対応で気をつけるポイントについて解説します。
否定しない、叱らない
認知症の方に、できないことを叱ったり、強く否定したりしないようにしましょう。
当たり前にできていたことがスムーズにできないのは本人が1番分かっており、不安を抱えているものです。
その状態で責めてしまうと、自尊心が傷つき、さらに混乱を招いてしまうかもしれません。
「何に困っているのか」話を聞く姿勢が大切です。
無理に思い出させない
認知症の方が忘れて思い出せないときは、無理に思い出させると逆効果になります。
認知症では体験全体を忘れ、思い出すことが難しい特徴があるのです。
そのため、何度も質問すると本人にとってはストレスになってしまいます。
しかし家族が「覚えておいてほしい」と思うことは当然です。
一呼吸おき、情報を伝え直し、一緒に考えていくとよいかもしれません。
急がせない、焦らせない
考えるペースや、行動が遅くなっても、急がせないようにしましょう。
時間をかけると、自分で考え動けることがあります。
そのため、急かして不安を煽らない関わりが必要です。
できる限り本人のペースに合わせ、1度に多くの情報を伝えたり、返答を催促しないようにしましょう。
簡潔なことばで伝えると安心感が生まれ、落ち着いて行動しやすくなります。
子ども扱いしない
できないことが増えても子ども扱いせず、1人の大人として接する姿勢が大切です。
認知症を発症しても、何も分からなくなる、何もできなくなるわけではありません。
すべてを肩代わりするのではなく、できない部分だけ補う視点を持ちましょう。
子どもに接するような口調や態度ではなく、今までどおり敬意を持って1対1の対話を行うことは、本人の意欲を支えていきます。
家族が困る5つの場面と対応方法

ここからは、認知症の方によくある場面ごとに、具体的な対応方法を紹介します。
何度も同じことを言うとき
「さっきも聞いた」と否定的な態度で示すのではなく、本人が「自分の思いが伝わった」と充足感を得られるように努めましょう。
「しっかりと覚えておきたい」「まだ伝わっていない」不安から、話を繰り返す場合があります。
そのため以下のような関わり方が大切です。
・「大変でしたね」と相槌だけでなく丁寧に言葉を返す
・カレンダーやメモを活用して、確認しやすいようにする
・「私たちも覚えているから大丈夫」と伝え、本人の負担を軽減させる
根気はいりますが、このような関わりを続けていくことで安心感が生まれ、症状の改善につながることがあります。
「もの取られた」と言うとき
家族に「盗んだ」と言われることは受け入れがたいかもしれません。
このような場合は「盗んでいない」と事実を伝えるのではなく、まずは不安な気持ちに寄り添います。
物がなくなったことは本人にとっては事実であり、否定されると「隠された」と疑いや不信感につながります。
安心してもらうには次のように対応してみましょう。
・相手の動揺を受け止めて、一緒に探す姿勢を見せる
・本人が見つけられるように誘導する
・大切なものを同じ場所に置いておくよう提案する
大切なものを失った不安を誰かのせいにして、自分の心を守ろうとしている背景があります。
無理に否定せずに味方でいる姿勢が大切です。
急に怒り出したとき
認知症の方が急に怒り出したり攻撃的になっても、同じように怒りで返したり、正論で納得させたりしないようにしましょう。
怒るのはわがままではなく、周囲を正しく認識できない不安から自分を守っている反応です。
何気ない言葉を「馬鹿にされた」と誤解したり、自分が攻撃されたと感じたりして、傷ついているかもしれません。
また、体がつらい、音がうるさいなど、身体的・環境的なことが原因で苛立ちを引き起こしている場合もあります。
本人の話を聞き、「どうしてほしいのか」確認して、安心してもらうことが大切です。
家事が順序だてて進められないとき
順序だてて作業を進める難しい家事は、すべてを肩代わりするのではなく、やるべきことの「ヒント」を与えながら関わりましょう。
危ないからと役割を奪うと、自信や気力まで低下させてしまう原因になります。
例えば買い物では冷蔵庫の中身を紙に貼り、買い物メモを用意すると、買い忘れや買いすぎを防げます。
また、料理では、「次は炊飯器のスイッチを入れようか」と次の手順を1つずつ伝えることで、今までの家事を継続しやすくなるのです。
できない部分をさりげなく支え、できる部分は大切にして、今までどおり過ごせるように配慮します。
落ち着かず歩き回るとき
認知症の方がうろうろと歩いているときは、無理に止めず、危険がないように周囲の環境を整えて工夫しましょう。
意味もなく動き回っているように見えても、本人にとっては「仕事に行かなければならない」という目的がある場合がほとんどです。
そのため、無理に止めると葛藤や恐怖心を強めてしまう可能性があります。
具体的には以下のような対応を試みてください。
・現役時代の仕事や子育てなど、本人の背景から意味を考える
・責めるのではなく、「仕事前にお茶でも飲みますか?」と本人に寄り添う
・頻回に外へ行く場合、連絡先を書いたカードを身につけ、地域包括支援センターに相談し、地域の見守り隊につなげてもらう
本人の自尊心と安全を両方守るため、すべてを制限するのではなく、環境を整えていく必要があります。
家族が相談できる3つの場所

認知症の家族が相談できる場所を3つ紹介します。
地域包括支援センター
どこに相談すればよいか分からないときは、まずは地域包括支援センターに相談してみましょう。
各地域に設置されている高齢者やその家族の相談窓口です。
初期の不安からさまざまな段階の悩みまで対応しており、無料で話を聞いてくれます。
本人が受診を拒んでいる場合でも家族のみで利用が可能です。
生活の困りごとに対するアドバイスから、専門病院、認知症カフェなどを紹介してくれます。
地域により、名称や担当エリアに違いがあるため、まずはお住まいの役所の「高齢者福祉担当課」に問い合わせましょう。
「物忘れで心配がある」と連絡すると案内してもらえます。
医療機関
かかりつけの病院があるときは、まずは日頃の健康状態を知っているかかりつけ医に相談しましょう。
日常の診療を通して状態の変化を察知して、専門医につなげてくれます。
認知症の専門医がいる病院には「物忘れ外来」があり、物忘れなのか認知症なのか見極めるための検査が行えます。
また、「認知症医療疾患センター」もあり、難しい症状が出たときや、入院が必要になった場合にも対応できる病院もあるのです。
それぞれの医師が連携をとりながら、どの場所でどのような治療することが最適か考え、対応してくれます。
経験者や専門家とつながれる場所
行政や病院だけでなく、「認知症カフェ」や「認知症家族の会」など同じような経験を持つ人や専門職とつながる場所が地域にあります。
1人ではないと感じることは支えとなるでしょう。
「認知症カフェ」は認知症の本人や家族、地域の人、そして医療・福祉の専門職がリラックスした雰囲気で集い、情報を共有しながら理解し合う場です。
「認知症家族の会」では家族同士が集まって悩みを語り合う「家族の集い」が開かれています。
介助のコツや工夫など実践的なアドバイスから、家族だからこその葛藤や思いも共有できる場でもあるのです。
地域によって場所が異なるため、地域包括支援センターに相談すると近くでやっている場所を教えてもらえます。
1人で抱え込まないようにできること

認知症の家族の対応を1人で抱え込まないでいましょう。そのためにできることを3点紹介します。
早めに相談する
早めに専門家に相談することは、本人や家族を守るために大切です。
早めに対応すると、今後の治療や介護サービスなど将来に備えられます。
しかし、「認知症と診断されるのが怖い」と何かしら異変に気づいていても相談できずに、時間がかかってしまう方も少なくありません。
本人がためらう場合は、まずは家族だけで相談してもよいのです。
話を聞いてもらえることで、先の見えない不安が軽減できます。
相談できる環境を整える
自分だけで解決しようとせず、悩みを共有できる環境を整えましょう。
1人で認知症の家族を支えることは孤独になりやすく心身の負担が大きくなります。
まずは知人や家族など身近な人に心の内を話してみてください。
あわせて地域包括支援センターやかかりつけ医を窓口として、専門家に相談することも大切です。
診断を受ける前も、診断を受け治療や介護サービスなどが始まってからも、不安や困りごとは変わっていきます。症状や進行は人それぞれであり、悩みは尽きません。
1度相談したら終わりではなく、かかりつけ医やケアマネージャーなどに定期的に話を聞いてもらえると、安心感が得られます。
休息をとる
認知症を支える家族が意識的に休むことは何より大切です。
「イライラしてしまう」「きつく当たってしまった」自己嫌悪になるときもあるかもしれません。「もう逃げ出したい」と思うこともあるでしょう。
気を張り詰め無理に続けていくと、心身のバランスを崩してしまいます。
自分の休息に罪悪感を感じずに介護サービスを利用したり、家族で協力をしたりしながら、リラックスできる時間を意識的に設けましょう。
自分が休みたいサインを見逃さずに安心して過ごせる時間を大事にしてください。
認知症の家族に関するよくある質問

認知症の家族に関するよくある質問についてまとめました。
Q. 認知症かもしれないと感じたとき、まず何をすればいいですか?
まず現在の様子をメモに残しておきましょう。
「いつから気になる行動が増えたのか?」「どのような場面で困っているのか」を整理しておくと、受診や相談の際に役立ちます。
そのうえで、地域包括支援センターやかかりつけ医に早めに相談してみると、よいかもしれません。
Q 受診の目安はどのような状態ですか?
同じことを何度も繰り返し聞く、日時や場所が分からなくなるなど、日常生活に影響が出ている場合は1つの目安です。
加齢や体調不良、その他の病気が隠れている場合もあります。
迷っているときでも、地域包括支援センターやかかりつけ医に相談ができます。
Q. 分かっていてもイライラしてしまいます。どうすればいいですか?
分かっていてもイライラしてしまうのは、自然なことです。
イライラしてしまう自分を責めないでください。
簡単に受け入れられなくていいのです。大事な家族だからこそ、辛くなるのです。
周囲の専門家を頼って1人で抱え込まないでいましょう。
まずは相談しよう
認知症の方は不安を抱えている方が多いため、否定をせず、安心してもらう関わりが大切です。
しかし完璧な対応が必要なわけではありません。
1人で抱え込まず、専門家に相談をしながら、そのときの家族の状況に合わせて、無理のない関わりをしていきましょう。
少しずつ環境を整えていくことが、本人、家族の安らかな生活につながります。
参考文献
【1】厚生労働省:政策レポート(認知症を理解する)
https://www.mhlw.go.jp/seisaku/19.html
【2】厚生労働省:「もしも(認知症の方・家族向け冊子)」PDF
https://www.mhlw.go.jp/content/000521036.pdf
【3】厚生労働省:「認知症ケア法-認知症の理解 」PDF
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
【4】厚生労働省:「本人にとってのよりよい暮らしガイド(認知症の方・家族向け冊子)」PDF
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/honningaide.pdf
【5】田中元基 認知症高齢者はどのように同じ話を繰り返すのか (J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaqp/13/1/13_84/_pdf/-char/ja
【6】厚生労働省:福祉・介護認知症に関する相談先
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236_00003.html
【7】厚生労働省:「認知症の本人と家族が共に生きることを支える手引き(専門職向け冊子)」PDF
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001323578.pdf
【8】藤本 直規 奥村 典子 認知症の家族ケア (J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/8/100_2170/_pdf/-char/ja
【9】 厚生労働省:「今後の認知症施策の方向性について 」PDF
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002fv2e-att/2r9852000002fv5j.pdf
